介護報酬の改定
ノーリフティングケアは介護報酬改定との関係からも注目されています。
2020年に厚生労働省では、翌年の2021年に予定されている介護報酬改定に向けての話し合いがおこなわれましたが、議論で話題の一つになったのがノーリフティングケアです。
介護の現場の労働力不足
介護の現場では依然として労働力不足が続いていることから、安定した労働力を確保するためには、介護職の仕事の負担を軽くすることも課題になっています。
介護の仕事の中でも特に大きな負担になっているのが、被介護者の体を持ち上げる作業です。
人間の体は軽い人でも40キログラムから50キログラムの重さがあるので、移動のために持ち上げるのは非常に負担のかかる作業です。
介護職の負担を減らす方法
移動の頻度が増えるほど、それだけ介護職の負担も重くなりますが、仕事の負担を軽くできる方法として注目されているのがノーリフティングケアです。
ノーリフティングケアを採用する事業所が増えれば、介護職の負担もそれだけ軽くなることから、労働力の確保にもプラスの効果があると期待されていてます。
事業所に報酬が入る可能性がある
そのために厚生労働省では、ノーリフティングケアをおこなう事業所に対してインセンティブを与えることも検討しています。
2021年の介護報酬改定に向けた話し合いでも、ノーリフティングケアをおこなう事業所に報酬を与える案が具体的に議論されています。
実現すれば介護職の負担も大幅に減る可能性があります。
ノーリフティングケアの効果
ノーリフティングケアとは、被介護者の体を介護者の力だけで持ち上げないでおこなう介護方法のことです。
トイレなどへ被介護者を移動させなければいけない場合には、移動をサポートするための専用の機械に移乗させることで、介護者の負担を軽くすることができます。
ノーリフティングケアをおこなうための資格
ノーリフティングケアをおこなう場合に特別な資格は不要です。
講習などで介護の方法を学習すれば、誰でも介護の現場で実践することが可能です。
ノーリフティングケアの効果
ノーリフティングケアをおこなうことの大きな効果は、介護者かかる仕事の負担を大幅に減らすことができることです。
介護職にとって自分一人の力で被介護者の体を持ち上げることは異常に重労働です。
しかし、器具などの力を借りることで、不要な体力を使用しなくても力仕事ができるという介護職の感想も多いです。
介護職の人数が増える可能性がある
ノーリフティングケアには、介護の仕事にたずさわる人を増やすことが期待できる効果もあります。
介護の仕事は非常に重労働な仕事であると思われているために、介護が必要な人の数と比較して介護職の数は慢性的に不足しています。
そのため、ノーリフティングケアが普及して体力を使わなくても介護ができるようになれば、介護の仕事を希望する人が増える可能性があります。
ノーリフティングケアの方法
ノーリフティングケアは介護者の負担を軽くすることを目的としておこなわれる介護方法です。
ノーリフトケアと言われることもありますが、基本的には被介護者の体を介護者だけの力で抱え上げないで介護する方法のことです。
ノーリフトケアを学べる研修なども開催されていますが、新しいスタイルの介護方法として広く注目されています。
ノーリフトケアの基本的な方法
ノーリフトケアでは、被介護者の体を持ち上げないようにするだけでなく、体を押したり引いたりしないようにすることも、できるだけ少なくするように求められています。
被介護者の体をねじらないように介護をすることも重要なポイントで、これらの動作を避けながら介護をおこなうのが基本的な方法になります。
スライディングシート・ボード
ノーリフトケアをおこなう場合に使用されることが多いのが各種の補助器具です。
介護者の力だけで被介護者の体を支えるのではなくて、各種の機械や器具の助けを借りることによって介護をおこないます。
使いやすい補助器具としてスライディングシートやスライディングボードが挙げられます。
・スライディングボードは、車いすからベッドなどへ移譲する際の橋渡しとして使用します。
・スライディングシートは、ベッドで横になっている人を枕元へ移動する際に使用します。
移動に利用されるので、どちらも摩擦が少なく滑りやすい素材となっています。
事故につながる可能性もあるので、正しい使い方を知っておく必要があります。
介護用のロボット
また、ノーリフトケアのために使用できる介護用に開発されたロボットがあります。
ロボットには介護者の力をサポートするタイプのものや、独立で動くものがあります。
被介護者を移動させるときに使用できるロボットもあり、移動にかかる介護者の負担を軽くすることができます。
介護用のベッドにもノーリフトケアに対応したものがあります。
ノーリフティングケアのメリット
ノーリフティングケアにはデメリットもいくつかありますが、それよりも多くのメリットがあります。
介護の仕事の負担が減る
介護職の人にとって大きなメリットとなるのが、介護の仕事にかかる負担を少なくできることです。
被介護者が一人で移動できない場合には、浴室やトイレまで移動させるだけでも非常に手間がかかります。
しかし、移動用のリフトなどを使用して被介護者を移乗させれば、移動にかかる負担が大幅に減ります。
少しの力で体の位置を変えられる器具がある
前述したスライディングシートの他にも、ノーリフトケアグローブというノーリフティングケアのための器具も販売されています。
ノーリフトケアグローブを介護者が腕に装着して使用すれば、素手でおこなうよりも力を加えずに、被介護者の体の位置をかえることができます。
ノーリフトケアグローブを使用することにより、腕の周囲が厚くなるので、被介護者の体の下に差し込めば、体を浮かせた状態で位置を変更できるメリットがあります。
被介護者への負担も減る
体を移動させるときには、被介護者の皮膚がこすれてしまう危険性もありますが、ノーリフトケアグローブを使用すれば、皮膚の摩擦を軽減できるメリットもあり、安全に介護ができます。
このように、ノーリフティングケアは介護を受ける人にとってもメリットがあり、体を持ち上げられたりねじられたりするよりも、体にかかる負担を軽くすることができます。
ノーリフティングケアのデメリット
ノーリフティングケアにはデメリットもありますが、 ノーリフティングケア方法を介護者がしっかりと理解していないことにより、発生するデメリットもあります。
正しい技術を学ぶ必要がある
ノーリフティングケアの方法を介護者が十分に理解していないと、被介護者の体にも負担がかかってしまうことがあるので、おこなう前には十分な理解が必要です。
介護職の人がノーリフティングケアの方法を学習できるような研修もあり、研修に参加することで正しい技術を学ぶことができます。
研修では具体的な介護の方法だけでなく、ノーリフティングケアの目的などもしっかり教えてもらえるので、より効果的に仕事に生かすことができます。
研修で技術を向上させることにより、技術の不足から起こりうるデメリットを克服できる効果もあり、ノーリフティングケアが持っている本来のメリットを実現できます。
器具に費用がかかる
ノーリフティングケアには、各種の補助器具を整えるための費用がかかるデメリットもあります。
予算の少ない介護施設ではノーリフティングケアをおこなうために必要な補助器具が十分に整えられない場合もあります。
しかし、補助器具を購入することにより介護職の負担を軽くすることは、施設にとってもメリットがあります。