プレパレーションとは?
小児科など、小児を扱う部門を備えた医療機関や施設では、プレパレーションという方法を用いることが多くあります。
プレパレーションの重要な役割
プレパレーションは、治療や検査、手術などの処置に関する内容や目的などの事柄を、医療行為を受ける子どもに説明することを言います。
プレパレーションの実施によって、これから自分が受ける医療行為について、子どもが十分に理解することにつなげられるのです。
看護師をはじめ、小児の医療に携わる医療従事者には、プレパレーションによって子どもが心の準備を整えられるよう導く役割があります。
さらに、子ども自身が自分の受ける医療行為について学び、納得して受け入れようとする対処能力を身につけられるのも、プレパレーションを行う有用性を示す1つの例です。
プレパレーションの5段階とは
プレパレーションは主に5つの段階に分けることができます。
ステージ1
1段階目は、病院に来る前を指し、この段階では子どもは主に親から情報を得ます。
つまり、効果的なプレパレーションには、親や保護者の協力も重要となるのです。
ステージ2
次に2段階目では、入院や処置の説明といったオリエンテーションを通して、子どもを観察し、その子に適したプレパレーションの方法を選択します。
ステージ3
3段階目は、実際にプレパレーションを行い、医療行為の説明を行うとともに、子どもに安心感を与える重要なステップです。
ステージ4
4段階目では、実際の医療行為中に子どもの気を紛らわせるために人形などを使って遊ぶ、ディストラクションが必要になります。
ステージ5
最後の5段階目は、医療行為後や退院後の時期を指し、処置直後のケアや退院後の外来診察、自宅での遊びを通した支援によって、子どものケアをするステップです。
ディストラクションとは?
プレパレーションにおける4段階目で重要な役割を担うのが、ディストラクションです。
ステージ4 ディストラクションとは
ディストラクションとは、治療中や処置中の子どもの気を逸らせたり紛らわせたりするための遊びを介入させることを意味します。
ディストラクションによって、医療行為中の子どもの痛みや緊張を和らげる効果が期待できます。
また、検査などを行う際は、子どもの協力が必要となることも少なくありませんが、子どもが検査のみに集中し過ぎてしまうことを避けるためのディストラクションを心がけることが、特に小児科の看護師には求められるのです。
痛みを増大させるのは不安や緊張?
小児において、痛みを増大させる要素として挙げられるものには、不安や緊張があります。
ディストラクションは、知覚統合が発達途上である乳幼児にとって、不安や緊張を取り除くのに有効な方法と位置づけられています。
子どもの不安や緊張を伴った痛みを軽減させるペインコントロールは、薬物によっても行うことが可能ですが、子どもの精神面へのアプローチが可能であるディストラクションもまた、重要なペインコントロールなのです。
有効な具体的方法とは
ディストラクションに有効な具体的な方法として、ディストラクションツールの活用が挙げられます。
ディストラクションツール
- 視覚的刺激(絵を見せる、絵本、飛び出す絵本、パズル、鏡、動くおまちゃ等)
- 聴覚的刺激(音楽、音の出るおもちゃ、お話、童話、レインメーカー、がらがら等)
- 触覚的刺激(粘土、ストレスボール、抱っこ人形、ゼリー、マッサージ、体をさする等)
- 臭覚的刺激(アロマセラピー等)
- 創造的遊び(数遊び、もの探し、動画、会話等)
- その他(ポエム、しゃぼん玉、笛、風船等)
上記のようにディストラクションツールには、子どもの視覚に対して働きかけるものや、聴覚を刺激するもの、その他にも触覚、臭覚、想像力に訴えかけるものなどがあります。
効果的なディストラクションを行うため、子どもや医療行為に適したディストラクションツールを選択することは重要です。
プレパレーション用人形とは?
プレパレーションを行う際、プレパレーション用の人形を取り入れるのも効果的な手段です。
子供に具体的な理解を促す
例えば、点滴や注射をする際、人形を用いることで、処置をする具体的な体の場所を子どもに示すことができます。
また、そのときに生じる痛みについて理解を促すことにも役立つのです。
プレパレーション用の人形には、人の形をしているだけの真っ白なものもあります。
そういった人形は、子どもに顔を描いてもらうことで、子どもの人形に対する愛着がわき、プリパレーションやディストラクションを円滑に進めることにも効果的です。
子どもの心を安定させ、安心させる
また、手術後や処置後に、処置中や現在の気持ち、感じた痛みなどを人形に自由に描いてもらうこともできます。
これにより、子どもの心を安定させ、安心させることにつながるのです。
こうした経験を経て、子どもが自身の感情の表し方や伝え方を学び、その後の治療を受け入れられる心構えが出来上がっていきます。
薬剤の理解を深める
加えて、喘息の治療が目的とした医療行為では、薬剤の吸入が必要になることもあります。
この場合、子どもに自発的に吸入してもらうことが求められるため、そうした理解を深めるためにもプレパレーション用の人形は有効です。
子どもが吸入を嫌がったり怖がったりするときは、人形にも同様に吸入させたり、吸入の必要性を人形に説明する姿を見せることで、子どもの治療についての理解が得られると言えます。
プレパレーション用の絵本とは?
プレパレーションに絵本を活用することで、看護師などの医療従事者とのコミュニケーションの取りやすさを向上させることもできます。
プレパレーションの効果的な方法とは
プレパレーション用の人形が主に治療や手術といった医療行為の説明に効果的であるのに対して、プレパレーション用の絵本は、子どもの精神的な安定につながったり、子どもの治療への本質的な理解に役立ったりするのです。
入院の必要性を説明するために絵本を活用するのも、効果的なプレパレーションの例です。
このとき、子どもに質問をしたり、看護師が質問を受けたりしたときに、自由に書き込みができるような工夫がなされているプレパレーション用の絵本もあります。
また、入院中の過ごし方や日課を、絵本を通して説明することで、子どもが不安がったり混乱することを減らし、理解しやすくすることもできるのです。
親しみのあるキャラクターが人気?
子どもに人気のある絵本シリーズにもプレパレーションに役立つ絵本があり、そうした絵本を読み聞かせることで、子どもの不安を減らし、励ますことができます。
親しみのあるキャラクターが、点滴や注射などの治療を受けていると絵に合わせて、その必要性についての説明も書かれているので、子どもの検査に対する気持ちを前向きにすることにも役立つのです。
それぞれの子どもの性格や治療内容に合わせるだけでなく、プレパレーションの段階に応じて、必要な内容の絵本を選択することも重要です。
手術を受ける子供へのプレパレーションとは?
プレパレーションは、医療行為によるトラウマを防ぐためにも重要です。
心の負担を軽減する効果
説明がないまま痛いことや怖いことをされたというショックは、子どもの心に深い傷を与え、その後も関わり続ける医療従事者への不信感にもつながりかねません。
特に手術は、子どもにとって精神的にも負担を与えることがあるため、そうした負担を少しでも軽減するために、きちんとしたプレパレーションを行う必要があります。
子どもの知る権利を大切にする
手術を受ける前の子どもに対するプレパレーションで特に重要なのは、最初の項で紹介した5段階のうちの3のステップです。
体のどの部分を、どうして手術するのかを、人形や絵本を用いて丁寧に説明するのが3のステップです。
このときに、実際に手術室を見学して、実際の環境に子どもに慣れてもらうことも効果的と言えます。
手術室を前に、子どもからは様々な質問が投げかけられるかもしれません。
そうしたとき、はぐらかしたり嘘をついて子どもの知る権利を奪わないようにすることが大切です。
病気を治すために頑張ろうといいう環境作り
また、単に説明するだけではなく、子どもが感情や考えを自由に表現し、病気を治すために頑張ろうという気持ちになるような環境を整えることも重要です。
加えて、手術室へ向かう途中のエレベーターなど、無機質で閉ざされた空間を子どもは恐れる傾向があります。
したがって、そうした空間を子どもが好むようなデザインにしたり、飾り付けをしたりすることも有効です。
そこまでの対応ができていない病院が多くあるというのが日本のプレパレーションの実態でもあります。
しかし一方で、手術室まで親に付き添ってもらったり、看護師がきちんとケアをすることで、子どもの精神的な負担の軽減に成功している例が多くあることも事実です。