インシデントレポートの目的とは?
インシデントレポートとは、インシデントに関する報告書のことです。
インシデントは、医療現場で起こったミスの中でも、患者さんに大きな影響がなかった場合を指します。
一方、患者さんに不利益や被害を与えた場合には、アクシデントと呼ぶのです。
インシデントレポートの目的
インシデントレポートとはどんな事を目的としているのでしょうか。
目的 インシデントレポートは、起こった事実や背景を客観的に分析し、再発防止に繋げることを目的とする
そして、病院全体でインシデントに関する情報共有をしているのです。
また、インシデントレポートは始末書や反省文の意味はありません。
原因や対策を明確にして、医療現場で働く人に注意喚起し、再発を防止するために作成します。
インシデントレポートは誰が作成するの?
インシデントレポートを作成する人は、基本的にはミスを起こした当事者です。
ただし、ミスを発見した人が作成する場合もあります。
それは、当事者が気付かないうちに、インシデントを起こしている可能性があるからです。
また、患者さんが見つけたインシデントに関しても、レポートを作成します。
レポート管理システムの活用
インシデントレポートは、レポート管理システムなどを使うことで、さらに詳細な分析が可能です。
例えば、頻繁に起こるインシデントや起こりやすい環境を分析し、結果を病院全体で共有します。
そして、インシデントの予防や早期発見・対策ができるのです。
インシデントレポートの書き方とは?
インシデントレポートの内容、書き方について紹介していきます。
インシデントレポートの内容&書き方とは
基本的に以下の内容を記載をしていきます。
インシデントレポート書式
- インシデントの内容
- インシデントの分類
- 当事者の情報
- 患者さんの情報
- 患者さんへの影響度
- 起こった原因や背景
インシデントレポートの書式は病院ごとに異なりますが、基本的には「インシデントの内容」「インシデントの分類」「当事者の情報」「患者さんの情報」「患者さんへの影響度」「起こった原因や背景」を記載します。
インシデントの内容は、起こった事実を端的に説明することが必要です。
その後、インシデントの分類から該当するレベルを選びます。
当事者の情報は、名前や配属先などの詳細情報は必要ありません。
一般的には、当事者の経験年数を記載します。
患者さんへの影響度や原因・背景では、言い訳などを入れず、正確な事実のみを説明することが大切です。
インシデントレポートの書き方ポイント
インシデントレポートの書き方は、「6W1H」を意識することがポイントです。
「いつ・どこで・誰が・誰に・何を・どのように」を明確にすると、インシデントの内容が分かりやすくなります。
また、6W1Hに沿ってインシデントレポートを作成すると、ミスを起こした当事者は状況を振り返ることができるのです。
状況の振り返りは、当事者が今後の再発を防止することにも繋がるでしょう。
インシデントレポートを作成する時は、反省文や言い訳文を記載しないこともポイントです。
推測文は書かず、見た状況をそのまま文章にします。
インシデントレポートの事例
インシデントレポートの事例を紹介していきたいと思います。
事例1
患者さんが転倒した時のインシデントレポートの事例です。
「〇月〇日、リハビリ室で患者Aが転倒した。その場にいたのは、勤務経験数3年目の担当看護師Bだ。他の患者さんに声をかけられて、目を離したのが原因である。転倒場所に柔らかいマットがあったため、打撲や痛みなどはない。」
患者さんが転倒した事実と原因・背景を詳細に記載することで、状況をイメージできます。
他の看護師やスタッフは、一瞬でも目を離すと、患者さんが転倒する可能性があることの情報共有になるでしょう。
また、マットの存在でアクシデントにならなかったことが分かり、今後の対策も考えられます。
事例2
患者さんが転落した時のインシデントレポートの事例です。
「〇月〇日、病室Aで患者Bがベッドの左側床に横たわっているのを、看護師Cが発見した。すぐに声をかけ、その場で待機し、主治医と看護師Dがきた後に体調と怪我の有無を確認した。患者Bによると、ナースコールを手に取ろうとしたところ、滑って転落したとのこと。ナースコールが、通常の位置になかったことが原因である。」
この転落に関するインシデントレポートでは、実際に転落した状況を見ていません。
ベッドの左側床に横たわっていたと客観的に状況を記載しています。
インシデント・アクシデントレベルの選び方とは
厚生労働省によると、インシデントはミスが患者さんに大きな影響を与えなかった場合、アクシデントは医療事故に該当する場合を指します。
アクシデントレベルの選び方
インシデントとアクシデントのレポートでは、0~5のレベルに分けていることが特徴です。
日本で使用されているレベルは、「身体へどのぐらいの影響があったか」を基準に選びます。
また、患者さんが基準になるため、看護師やスタッフが気付かなかったミスでも、患者さんから指摘や訴えがあった場合は、インシデントレポートを作成することが必要です。
インシデントレベル
インシデントは、レベル0~2に分類します。
レベル0 … ミスは発生したが患者には実施されなかった
レベル1 … ミスはが発生し患者に実施されたが、患者に変化はなかった
レベル2 … 生命に異常はないが、検査や経過観察が必要になる
レベル0は、ミスは発生したが患者さんには実施されなかった場合です。
転倒の場合、転倒を未然に防げた場合はレベル0になります。
一方、転倒して怪我がなかった時は、レベル0には該当しません。
レベル1は、ミスは発生したが患者さんに変化がなく、その場の対処で済んだ場合になります。
レベル2は、生命に異常はないが、検査や経過観察が必要になる場合です。
アクシデントレベル
アクシデントはレベル3~5に分類します。
レベル3 … 生命に異常はなくても、緊急処置の必要性や入院日数の増加が起こった
レベル4 … 生命への影響が大きいまたは障害が残った
レベル5 … 事故が死因になった場合
レベル3は、生命に異常はなくても、緊急処置の必要性や入院日数の増加が起こった場合です。
レベル4は生命への影響が大きいまたは障害が残った時、レベル5は事故が死因になった場合を指します。
ヒヤリハットとは?
ヒヤリハットとは、「ヒヤリ」「ハッ」としたことで、未然に防いだミスを意味します。
ヒヤリハットに関する報告書も作成し、その経験談を病院全体で共有することが目的です。
そして、ヒヤリハットを未然に防いだり、対策を考えたりします。
ヒヤリハット報告書の書き方とは
実際に起こった事故は「事故報告書」になるため、ヒヤリハット報告書とは区別することが特徴です。
ヒヤリハット報告書の内容
- 患者さんの基本情報
- 発生時の状況
- ヒヤリハット内容
- 対応
- 想定される事故内容
- 今後の対策
ヒヤリハットはインシデントのレベル0と同意語として使う場合もあります。
ヒヤリハット報告書に記載する内容は、「患者さんの基本情報」「発生時の状況」「ヒヤリハット内容」「対応」「想定される事故内容」「今後の対策」などです。
ハインリッヒの法則とは
ヒヤリハットに関する用語として「ハインリッヒの法則」があります。
これは、事故発生の経験法則として、労働災害分野で使用されるものです。
1件の重大事故があった場合、その背後には重大にならなかった事故が29件隠れているとされます。
また、その背後には事故になりそうだった異常が300件も隠れているのです。
その300件がヒヤリハットになります。
そして、ハインリッヒの法則は「1:29:300の法則」と表現される場合もあるのです。
大きな事故を防ぐためには、その背後に隠れている異常を見つけ、しっかりと対策しなければなりません。
つまり、ヒヤリハットの認識や情報共有を大切にすると、重大事故を未然に防げる可能性があるのです。