2018年に改定された72時間ルールとは
72時間ルールとは2018年に実施された診療報酬改定によって生まれた夜勤に関するルールです。
今回はそのルールの目的や詳細について紹介します。
72時間ルールの目的
看護師を対象として行われた調査によると、月間の夜勤の時間数が72時間を超えると、業務のミスなども増えて、パフォーマンスが低下するなどの問題があることがわかっています。
上記の問題を受けて、医療の質を向上させる目的で、基本的には看護師一人あたりの平均夜勤時間について上限を72時間と定めたのが72時間ルールです。
この条件を満たさない場合には、診療報酬のうち入院基本料が減額される仕組みになっているため、病院としては是が非でも守らなければならなくなっています。
夜勤専従看護師の勤務時間
夜勤専従看護師によって、夜勤回数や夜勤時間の軽減を図っている病院も多くなっていますが、その勤務時間についても変更が行われました。
夜勤専従看護師の場合は、以前までは休憩を含めて144時間以内でなければならないとなっていました。
しかし、この制限も2012年に廃止されてしまっています。
その影響を受けて、夜勤専従看護師の夜勤回数が増えている現場も多いのが実態です。
看護師の夜勤のあり方について、どのようにしていくかを現場で慎重に検討しなければならない状況が2018年に導入された72時間ルールによって生み出されています。
72時間ルールの計算方法
医療機関では様式9に基づいて勤怠管理をしているのが通例で、病棟日勤や病棟夜勤の時間数を克明に記録しておく必要があるものです。
72時間ルールは、上記の様式9に基づいて計算されます。
様式9とは
様式9とは…入院基本料を算出するために看護師数などを記録する用紙のことです。
記載方法のルールが細かく設定されているものの、基本的には看護師の勤務時間を記録します。
基本的には夜勤時間の計算は様式9に記入されている時間に基づくことになります。
看護師一人あたりの月平均夜勤時間数を計算したときに72時間以下になっていればペナルティを課されることはありません。
計算方法
この計算方法は比較的簡単で、夜勤の実人員になっている看護師全員について、まずは病棟夜勤の時間数を様式9に基づいて計算します。
夜勤をする全看護師の夜勤時間合計数を、夜勤時間帯に働いていた看護師の実人員数で割ることによって算出することが可能です。
※実人員には月に16時間以下の夜勤しかしていない看護師と夜勤専従看護師は含みません。
※ただし、短時間制職員制度を運用している保険飲料機関で短時間勤務をしている人については12時間以上夜勤をしていたら実人員に含みます。
つまり、夜勤専従看護師を除いて16時間以上または短時間勤務で12時間以上働いている看護師だけをピックアップして、夜勤時間の平均を計算したときに72時間以上になっているとルールに反したという解釈をします。
そのため、夜勤専従看護師を活用した方がルール違反になりにくいと考えられるでしょう。
72時間ルール特定入院料とは
様式9は入院基本料に関わる日勤時間と夜勤時間を記録するもので、診療報酬制度に基づく入院基本料の算定の際に重要になります。
72時間ルールでペナルティとして課される夜勤時間超過減算についても入院基本料からの減算になるという点には注意が必要です。
つまり、入院基本料が適用されない病棟については72時間ルールが適用されません。
特定入院料は対象外
厚生労働省によって提供されている資料では、ICUなどの特定入院料が適用される病棟を対象外とすることが言及されています。
特定入院料とは、地域包括ケア病棟や精神療養病棟、ICUなどのように病棟が特定の機能を持っていて、特定の疾患などに対する入院医療を行える病棟について評価をしている入院料です。
一回の入院について一回算定できる仕組みになっているのが特徴になっていて、小児特定集中治療室管理料、脳卒中ケアユニット入院医療管理料などといった形で診療報酬として算定することになります。
退院支援委員会を設置するなどの施設要件についても細かく規定されていて、全ての要件を満たしていなければ特定入院料を算定することができません。
内容によって点数も異なっていますが、どれに該当していたとしても72時間ルールは適用外になります。
72時間ルールに申し送りの時間は含まれる?
看護師には申し送りという、次の時間帯を担当する看護師へ患者の容態などを引継ぐ時間があります。
これは、シフトの入れ替わりのタイミングで実施する為、勤務時間を超過することが往々にしてあります。
72時間ルールでは申し送りの時間が含まれるのかどうかを判断するのが難しいという人もいるでしょう。
申し送りは勤務時間から除外される
様式9に記入するときには申し送りをしたときには時間数を除算することがルールになっています。
つまり、申し送りをして夜勤時間に入ってしまっていたとしても夜勤には含まれないという解釈をするのです。
厚生労働省では「疑義解釈資料の送付について(その1)」という平成30年3月30日の事務連絡で関連する回答を公表しています。
夜勤時間帯で申し送りをしたときには、申し送りをした看護師の夜勤時間からは除算して構わないというのが基本です。
日勤時間帯での申し送りについても同様の解釈が可能で、申し送りをした看護師の勤務時間から除外できると回答しています。
申し送りの時間が含まれるかは月単位で決める
また、時間を除くかどうかの判断は同一入金基本料単位かつ月単位で選択することができるというのが回答です。
このため、夜勤時間や日勤時間の申し送りの時間が72時間ルールに含まれるかどうかは、施設が月単位で決めることになっています。
ただ、実際には夜勤専従者数が少なくて夜勤の時間が72時間ルールに抵触してしまうリスクが高い施設が多いことから、申し送りの時間は除外して解釈するケースが多いのが実情です。
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72時間ルール適用外の病院ってあるの?
72時間ルールはどのような病院では適用外になるのでしょうか。
特定入院料の対象となっている病院
72時間ルールは入院基本料を算定する病院にのみ適用されるもので、特定入院料の対象となっている病院は対象外になります。
特定入院料を算定することができる対象の病棟は以下のとおりです。
- 地域包括ケア病棟
- 精神療養病棟
- 特定一般病棟 など
それ以外の病棟で入院基本料を算定していることが求められます。
そのため、病院全体としては適用外とはならず、あくまで該当する病棟あけが72時間ルールの適用外になるというのが2020年時点での仕組みです。
救急救命や小児特定集中治療室、脳卒中ケアユニット、ハイケアユニットなどについても同様になっています。
夜勤専従看護師の拡充が当面の対策
適用外になる病院はあまり多くはないことに加え、突然ペナルティのあるルールを課されても対応できない場合があるのは明らかでしょう。
月平均夜勤時間超過減算による収入減は病院にとっては致命傷になります。
そのため、当面の間は夜勤時間特別入院基本料として所定点数の70%の算定ができるようにして移行措置を取っています。
この間に夜勤専従看護師を中心として看護師の確保をしていき、ルールが適用されない病院以外では看護師の夜勤負担を軽減できる体制を整えることが求められているのが現状です。